事故と障害の内容
ご依頼者様(30代女性)が自動車の助手席にいたところ、運転手(ご依頼者様の父親)が、自損事故でトンネルの壁面に衝突して、右脛骨腓骨遠位端開放骨折、右脛骨高原骨折になりました。
ご依頼の経緯
自損事故なので人身傷害保険を使って治療をしていましたが、自営業をされているご依頼者様が休業損害について適切に支給されているかどうか疑問を持たれて相談に来られました。
受任後の活動
1 人身傷害保険は、弁護士が関与しても、原則として支払われる保険金に変化はありません。
なぜなら、人身傷害保険の保険金は約款で詳細に定められて、その約款通りに金額が決定されるので、弁護士が交渉できる余地が原則としてないからです。
慰謝料や後遺障害慰謝料などについては弁護士が入っても金額は上がりません。
しかし、人身傷害保険でも弁護士を入れるメリットがある場合が2点あります。
2 ひとつは後遺障害の認定です。
後遺障害の等級を適切に取らないと、場合によっては数百万円以上の金額の差が出ます。
3 もうひとつは後遺障害が認定された場合の逸失利益です。
後遺障害が認定された場合、逸失利益がその等級に応じて算定されます。
ところが、この逸失利益を計算する要素である労働能力喪失期間と労働能力喪失率については、実際に認定された後遺障害の等級にかかわらず、諸事情を総合的に考慮したうえで保険会社が決定するといった内容が約款で書かれていることが多いのです。
仮に30歳の方が後遺障害11級と認定されたら、通常は、労働能力喪失率は20%で、労働能力喪失期間は37年間です(一般的に67歳まで働くという前提で期間が計算されます)。
ところが、人身傷害保険会社によっては、喪失率20%、喪失期間37年間とせずに、特段の根拠なく、喪失率14%(12級の喪失率)、喪失期間を10年として金額を計算することもあります。
4 この件では右膝可動域制限と右足関節可動域制限が残り、それぞれ後遺障害12級7号が認定され、併合11級が認定されました。
この件のご依頼者様は、右膝可動域制限と右足関節可動域制限が残り、「1下肢の3大関節中の1関節に機能の障害を残すもの」としてそれぞれ後遺障害12級7号が認定され、併合11級が認定されました。
11級であれば、労働能力喪失率は20%で、労働能力喪失期間は67歳までの期間です。
ところが、人身傷害保険会社は、ご依頼者様について、労働能力喪失を14%とし、労働能力喪失期間を10年として保険金額を計算しました。
その計算だと、通常通り計算した額と比べて1000万円ほどの差がでました。
それは不当だということで、喪失率20%、喪失期間を67歳までとして交渉を開始しました。
交渉を開始すると、保険会社が逸失利益の適切な計算のために治療をした病院のカルテを取得して精査したいとのことでしたのでカルテを取得したいと言ってきました。
こちらで取得したカルテを確認すると、リハビリの際に後遺障害診断書に記載の角度よりも良い角度が記載されていることが何回かありました。膝も足関節も両方です。
ご依頼者様に事情を聴いてみると、リハビリの際に理学療法士が多少無理やり関節を曲げた状態で角度を測定したことがあったとのことでした。
そのリハビリ時の角度を前提にすると、膝も足関節も関節可動域12級7号には該当しない角度でした。
しかし、どのみちこのままでは保険会社は低い額しか支払わないので、「リハビリの際の角度は理学療法士が無理に曲げた角度であること、仮に可動域が12級7号に至らないとしても、『局部に頑固な症状を残すもの』としての12級13号には該当する」と保険会社に主張して交渉を続けました。
すると、保険会社が妥協案として、労働能力喪失期間はこちらの主張通りに67歳まで認めるが、労働能力喪失率は12級の14%で計算するという案を提示しました。
当方主張の逸失利益の額よりも500万円ほど低い金額の提示でした。
この案を蹴ったらあとは裁判しかありません。
しかし、裁判をして裁判官が足関節と膝関節について後遺障害12級7号を認定しなかったら、ご依頼者様の後遺障害の等級が14級9号にしかならない可能性もありました。
もし、後遺障害が14級と認定されると、自賠責からの既払額との関係で保険金が全く出ないということにもなりかねないため、ご依頼者様と協議の上、保険会社主張の喪失率14%で合意をしました。
結果
解決のポイント
人身傷害保険についても、後遺障害の認定と逸失利益については、弁護士が関与した方が良い場合もあるので、一度ご相談ください。