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弁護士坪井俊郎の交通事故体験記⑤~保険会社との交渉~

※この記事は、神戸ライズ法律事務所の所長弁護士 坪井俊郎が過去、自身が体験した交通事故に基づいて体験談を記しています。はじめからお読みになる場合はこちらから>>

1 保険会社との交渉開始

無事(?)に後遺障害14級9号が認定されました。
あとは慰謝料等について保険会社と交渉です。

裁判基準で損害額を計算して、保険会社に請求をして待つことしばし。
保険会社から電話があり、驚きの返答が来ました。

 

 「当社の税理士に確定申告関係の資料を見てもらったところ、あの怒らないでくださいね。事故日以降の売り上げの減少がないので、休業損害はゼロ円という回答でした。
ただ、これだと示談できませんので、先生の収入を時給換算しまして、通院1回2時間として、通院日数分を休業損害として提示いたします」

 

そもそも、事故日以降の売り上げは落ちていたのですが。。。
まあ、一定程度の提示はあったので、休業損害0円と言われるよりはましでしょうが。。。

しかも、驚きはそれだけではありませんでした。
逸失利益(後遺障害が残って労働能力が落ちたら収入が減るので、その減収に対する補償のこと)でさらに驚愕の提示が来たのです。

 

通常、後遺障害14級の労働能力喪失率は5%です。
これは、14級相当の後遺障害が残った人は、労働能力が5%落ちるから収入も5%減るだろうというものです。
後遺障害1~3級は喪失率100%(まったく働けない)で、4級以降で率が減っていき、例えば10級だと27%、14級だと14%の労働力が落ちた(収入が減った)とみなされます。
なので、14級の私も労働能力喪失率5%で逸失利益を計算して保険会社に請求していました。

ところが、保険会社担当者は、

 

 「当社の税理士に(私の)確定申告書等を見てもらい、意見をいただきまして、その後、当社でも検討しました。
あの、怒らないでくださいね。税理士の意見がこうだったというものですので。
その税理士の意見ですが、先生の場合、いわゆる大工さんのような肉体労働者ではなくて知的業務、事務業務ですので、神経症状の14級の労働能力喪失率は2.5%との見解でした。」

 

と言ってきたのです。

さすがに驚きました。怒るというよりむしろ、笑ってしまいました。
私も数多くの交通事故案件を手掛けていますが、14級で労働能力喪失率が2.5%だと言われたのは初めてでした。

先にも書いた通り、14級の喪失率は5%です。2.5%だったら逸失利益が半分になります。
そもそも、なんで税理士さんが労働能力の減少割合を判断できるのか、意味が分かりません。
休業損害の計算のために確定申告書等の資料が必要でそれを税理士さんに確認してもらっているとは聞いていましたが、まさか、税理士さんが労働力低下の程度にまで言及してくるとは業務範囲外もいいところです。

もっとも、実際のところは、少しでも額を少なくするために保険会社内部の判断で喪失率を2.5%にしてみたものの、それをそのままストレートに私に伝えると私が怒るので「税理士がこういった」ということにして、あのような言い回しで伝えたのだろうと思っていますが。

内容はともかく、ひとまず保険会社からの提示がありましたので、検討の上回答すると返答して電話を切りました。

 

2 なぜか弁護士案件に

とはいえ、保険会社の提示は低すぎて話になりませんでした。
当然、応じることができませんのでしばらくしてから突っぱねました。

もっとも、こちらも当初の請求を維持したままでは話し合いでの解決も難しいです。
そこで、対案として、私の方から最初の請求額からやや減額した額を『早期解決のため譲歩します』という名目にして請求してみました。

すると、数日後に保険会社から驚きの電話が。

 

「先生の案件は金額が高いので、当社では稟議案件なんですよ。
それで、私の一存でどうこうなる案件ではないんですよ。会社で先生からの請求について検討したのですが、先生とは同じダイビングを趣味にする仲ですので、争う気は全然ないのですが、会社として弁護士を入れることになったんですよ。
本店の部長とかもいろいろと話し合った結果、会社の方針として、弁護士委任するしかないなという判断になったんですよ。
(加害者から)委任状が(保険会社に)届いたら、弁護士から通知が行きますので、それだけ、先生にお伝えしておいたらいいかなと思いまして。先生とはできれば和解がしたかったのですが、一定以上の金額を超えると税理士相談をしなければならないという決まりもありますし、稟議案件でもありますので、私の一存で先生と示談したいって思っても出来ないんです。そのあたり、申し訳ございませんが、委任状が来ましたら先生に連絡するように弁護士に伝えておきます」

 

そんな無茶な請求をした覚えはないのですが、一方的に交渉を打ち切られ、問答無用で弁護士案件になりました。。。

 

3 弁護士さんからの驚きの通知

今回の事故の加害者は関東方面に住んでいます。保険会社も関東方面のサービスセンターでした。
そのため、弁護士が付くといっても、関東方面の弁護士が付くものだと思っていました。

なんせ、休業損害と逸失利益の計算のために私の確定申告を出しているのですから、もし知っている弁護士が当たったら私の収入が丸わかりなので、正直凹みます。
その点、関東方面の弁護士はほとんど知らないので、知り合いに当たる可能性は極めて低いですし、その先生とこの件が終わった後に別件で顔を合わせることもまずありません。

 

ところがどっこい。
なんと私のところに届いた受任通知は神戸の弁護士さんからでした。

さすがに顔が引きつりました。
全く知らない弁護士さんでしたので、それは良かったのですが、地元なので、今後、別件の交通事故事件等で当たらないとは限りません。
しかも、その弁護士さんの事務所は当事務所から徒歩圏内です。
身近な同業者に自分の年収を知られるって、それだけで精神的苦痛なのですが。。。
言葉にしがたいモヤっとした気分を抱えながら通知書を読むと、改めて損害の計算と提示額が記載されていたのですが、その中にこれまでで一番の驚愕が潜んでいました。

なんと、休業損害0円回答でした!!

確かに、保険会社担当者も0円という算定でしたが、それだと話にならないからということで一定額の提示がありました。
ところが、弁護士対応になったというだけで正式に0円回答になったのです。
さすがに逸失利益の労働能力喪失率は5%になっていましたので、結果的に保険会社担当者が提示していた額と、弁護士さん提示の額とはほとんど同じでしたが、休業損害0は想定外でした。

 

4 弁護士との面談

相手弁護士から面談をしたいという連絡があったので、当事務所で面談をしました。
休業損害0円の理由は、「私も弁護士ですから、その感覚から考えると、たとえ通院のために時間を使っていたとしても、それによって休業損害が発生する=減収があるとは考えられません」とのことでした。

「考えられません」と言われましても、いったい私が通院にどれだけ時間を取られていると思っているのでしょうか。
病院は混んでいるため、通院には3時間程度必要です。
しかも、早朝や夜間に病院が空いているわけではないので、必然的に普段仕事をしている時間帯に通院をせざるを得ず、その間は仕事ができません。
私は、通院日は朝9時頃から病院に行っていましたが、治療が終わって事務所に到着するのはだいたい12時前でした。
午前中が仕事にならないのです。

ところが、この弁護士さんによると、弁護士は1日のうち3時間仕事ができない状態になっても減収はないそうなので、この弁護士さんは、これから毎日午前中はどこかで遊んだり休養したりして午後から働ければいいのにと思いましたが、大人げないので口には出しませんでした。

面談はしたものの、結局、通知書に記載した金額を大きく超える金額での示談をすることは難しいとの回答でした。
その金額では到底納得できないので、紛争処理センターに申し立てることにしました。
(続きます)

 

Last Updated on 2023年6月19日 by user_koberise-jiko

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